テレワークの普及にともなって、一部の社員では、テレワークを原因とする、うつ症状などが発生することがあります。今回は、こうしたテレワーク鬱を出さないための、メンタルヘルス対策について解説していきます。
ただし、あくまでも労務管理上の対策についての解説ですので、実際にうつ病などに罹患した社員への医学的な対応などについては、専門医の指示に従うようにしてください。
メンタルヘルス以外の健康対策については、テレワーク環境の整備や、テレワークの肩こり・腰痛対策をお読みください。
タイプ別のテレワークメンタルヘルス対策
労務管理上、社員のメンタルヘルス対策としては、次の4つのポイントに注意する必要があるでしょう。
- 孤独感・・・家で一人で仕事をする事に耐えられず孤独感にさいなまれる
- 無力感・・・テレワークでやるべき仕事が見つけられず成果も出ない
- 自己管理の失敗・・・寝坊や休憩のとりすぎ、昼夜逆転で仕事も進まない
- 日照量低下・・・日光に当たらず、ビタミンDが生成されずセロトニン不足に
テレワークでの孤独感によるメンタルヘルス対策
人の性格を「外向的」「内向的」で分けるとする考え方があります。この分け方で考えたときには、テレワークでの孤独感を強く感じるのは「外向的」な人に多くいます。
- 外向的な人・・・一人で要ると元気がなくなる。人と会うことでエネルギーがチャージされる。
- 内向的な人・・・人と会うと疲れる。一人になることでエネルギーがチャージされる。
テレワークの環境では、直接仕事仲間や顧客と会うことができず、一人でPCに向かう時間が長くなります。そのような環境の中では、内向的な方は元気に仕事ができ、あまりストレスも感じないで適応できます。しかし、外向的な方は孤独感に苛まれ、段々と元気がなくなり、ストレスも溜まっていきます。
そうした状態がつづくと、あまりうつ病などにはなりそうにない、外向的な方ほどメンタル不調になりやすくなるというケースが増えています。
こうした孤独感によるメンタル不調への対策としては、
- テレワーク対象者の選定時に、本人の希望を聞くとともに、出社の希望には柔軟に対応する
- テレワーク中、いつでも他人と接する事ができるよう、常時開かれているWeb会議ルームや、雑談チャットルームなどを用意する
といった事が考えられます。会社によっては、昼食休憩時に雑談できるWeb会議ルームを開くなどの対策をとっているところもあります。
テレワークによる無力感に対するメンタルヘルス対策
入社後間もない新人や、仕事に慣れてはきたが、まだ自分で組み立てられるほどでは無い若手社員に多いのが、無力感からくるメンタル不調です。
社内で上司からの指示のもと働くことはできていたのに、上司もテレワークによるマネジメントに不慣れで、テレワーク以前と同じようなフォローを受けられなくなった結果、自ら仕事を組み立てたり見つけることができなくなり、自信の喪失につながる事があります。
このようなメンタル不調に対しては、
- テレワーク対象者選定時に、一定以下の社歴、職務等級の社員は対象外とする。
- 若手社員に対しては、上司からある程度のマイクロマネジメントを行う。(細かな目標設定、進捗管理、定期的なフィードバック等)
といった対策が考えられます。
就業規則等にテレワーク対象者の基準を設定する際、仕事をある程度自身で差配できるだけの経験や能力を持つ社員に限るよう、選定基準を設定すると良いでしょう。社歴の浅い社員や、職務等級がまだ低い段階の社員については社内で十分な教育を行った上で、テレワーク対象者にするようにしましょう。
社員全員、あるいは部署全員をテレワークにしているなど、若手社員についてもテレワークをせざるを得ない場合には、上司は日々の業務目標を提示し、進捗状況を確認し、細かな指示も与えるなど、細やかな指導をするようにすると良いでしょう。
通常、こうしたマイクロマネジメント自体は、過干渉につながり、あまり良いことでは無いとされますが、テレワークに不慣れな若手社員に対しては、テレワークでの仕事の進め方に慣れるまで、十分にコミュニケーションをとって、指導する必要があります。
テレワークでの自己管理の失敗に対するメンタルヘルス対策
若手社員など、自己管理能力が十分で無い社員がテレワークを行う際、時間管理に失敗してしまうことがあります。
最初は軽い寝坊や、勤務時間中のサボりなどから始まり、徐々に労働時間が不規則になっていき、その遅れを取り返そうと、残業を行ったり、時には昼夜逆転の生活に陥ってしまうこともあります。
こうした自己管理の失敗は、先に紹介した無力感にも繋がり、結果的にメンタル不調の原因となるケースも見受けられます。
このような自己管理については、
- Web会議システムを利用した、朝礼・昼礼・夕礼の実施
- 朝礼時のタスク確認、昼礼時の進捗確認、夕礼時の残業申請・管理
といった対策が有効です。
特にWeb会議システムを利用した朝礼は寝坊対策としても有効ですし、毎日タスクと進捗確認を行うことで報連相の確保や、チームワークの醸成にも効果が期待できます。
また、朝夕にWebミーティングを行い、残業申請も行ってもらうことで、テレワークにおける労働時間管理も確実に行うことが可能になります。
テレワークによる日照量の低下によるメンタルヘルス対策
一般的にうつ症状の原因の一つとして、脳内の神経伝達物質である、セロトニンの不足があげられます。
このセロトニンの体内での生成には、ビタミンDが必要ですが、このビタミンDは日光を浴びることで体内で生成されます。ビタミンDは最も欠乏しやすいビタミンと言われており、ビタミンDが不足することにより、セロトニンが生成されず、うつ症状につながると言われています。
テレワークでは、出勤時の移動なども無く、室内にこもりがちになることで、日光を浴びる機会が減少する傾向にあります。この場合、同時に運動不足に陥りやすくもなりますので、結果的にメンタル不調につながることがあります。
こうしたメンタル不調に対しては
- できるだけ窓際など日光を浴びることのできる場所で仕事を行うよう指導する
- 昼食休憩時に食事をとったり、買い出しに行くために外出を行うよう指導する
- ビタミンDサプリメントの摂取を推奨する
といった対策が考えられます。また、合わせて仕事途中にストレッチなどを行うことを推奨するとより効果的でしょう。
テレワークに起因するメンタル不調の労災認定
新型コロナウイルス感染拡大対策として、急遽テレワークを開始した企業などでは、テレワークが原因となるメンタル不調が、多く発生しました。
しかし、テレワークが原因だからといって、こうしたメンタル不調がすべて労災認定を受けられるかと言うと、それは別の問題と言えます。
精神障害の労災認定については、厚生労働省が認定基準を明確に示しています。この認定基準を確認してみると、業務による出来事を類型に当てはめ、心理的負荷強度が「強」になった場合に、労災認定されうることがわかります。
その上で、これまで紹介してきたメンタル不調の原因を当てはめてみると、
- 勤務形態に変化があった・・・心理的負荷強度「弱」
- 仕事のペース、活動の変化があった・・・心理的負荷強度「弱」
とされており、これまで見てきた原因だけでは、労災認定を受けるための心理的負荷強度は弱いと言えます。もちろん、それ以外にも長時間労働など、様々な仕事上の原因があり、総合的に勘案した結果、労災と認められるケースはあります。しかし、そうした別の要因が見当たらない場合や、私生活上のストレスなど仕事とは別に原因がある場合には、労災の認定を受けるのは難しいと言えるでしょう。
テレワークを原因としたメンタル不調が労災だと思われる場合には、労働基準監督署や社会保険労務士などに相談してみると良いでしょう。